5.川平法のコツ

①もっとも重要なコツ:力を抜いて動かしましょう

「がんばらないで」

「楽にスッと動かしてください」

 

川平先生がNHKスペシャルの中で患者さんに言っていたセリフです。

簡単な言葉ですが、とてもとても大事な川平法のコツが凝縮されています。

 

脳卒中片麻痺の方の生き残った脳は、手足の筋の動かし方を模索しています。

どの神経に命令を送れば、思うところの筋肉が収縮するのか。

 

そのときがんばって、力を入れて動かそうとすると、たくさんの筋肉が収縮してしまいます。

つまり、“いらないところに力が入る”ってやつですね。

たくさんの筋肉が収縮してしまったら、脳は自分の出した命令がどの筋肉に届いたのかわからなくなります。

どの神経に命令を送ればいいのかわからなくなるわけです。

 

そこで力を抜いて楽に動かそうとしてください。

そうすると一つの筋肉だけが収縮します。

その筋肉こそが脳が動かしたかった筋肉なのです。

そのときに命令を送った神経を脳は覚えるのです。

 

川平和美先生の著書 決定版!家庭でできる脳卒中片マヒのリハビリ やさしい図解「川平法」では、『気持ちよく繰り返しましょう』と表現されています。

 

麻痺した手足を動かすことは大変なことです。

 

介助される方、「がんばって」と言いたいところですが、「がんばらないで」と声をかけてあげましょう。

 

患者さんの方も、ぜひ、がんばらないで、がんばってください。

②川平法は自動運動:他動運動はだめ

川平法は患者さん本人が動かそうと思って動かす運動です。

それを自動運動といいます。

 

もし患者さん一人で動かしにくい場合は、介助者が少し助けると思います。

それは自動介助運動といいます。

自動介助運動も川平法ではOKです。

 

よくまちがってやってしまうのは、介助者が助けすぎてしまうことです。

そうするともはや自動介助運動ではなく他動運動になってしまいます。

介助者が動かしているだけで、患者さんが動かしていないものです。

 

この他動運動では、脳は学習しません。

脳はやったことしか学習しません。

やってもらったことは学習しません。

 

介助者が一生懸命にやればやるほど、他動運動になってしまっていることがよくあります。

特に大きな関節、肩、肘、股関節などの運動は、この罠にはまりやすいです。

 

患者さんも動かした気になっていますし、介助者もやった感があります。

でも脳はまったく学習していません。

 

ときどきは介助者はわざと力を抜いて助けるのをやめてみてください。

 

そして患者さんが本当に動かしているか確認してみるとよいでしょう。

③川平法における促通:2種類の反射

川平法は脳の可塑性を利用した運動学習です。

 

麻痺した手足になんとかして運動をさせて、脳の学習してもらいます。

 

なんとかして動いてもらうために促通を行います。

 

促通には患者さん自身が持っている反射を使っています。

主に2種類の反射を使っています。

 

一つ目は、伸張反射といいます。

 

筋はすばやく伸ばされると逆に収縮します。

 

伸張反射をおこすためには、動かしたい筋を動かしたい方向とは反対方向にすばやく動かします。

たとえば股関節を外に開く筋肉を動かしたいときには、内がわにすばやく押します。

 

また指先で筋を叩くのも伸張反射をおこす方法のひとつです。

軽くすばやく叩くとピクンと収縮します。

肩の屈曲などに使われています。

 

二つ目の反射は屈曲反射といいます。

 

筋は皮膚または筋に触覚刺激を受けると収縮します。

 

 

すなわち強く皮膚をこする、筋肉をこする、などの刺激で収縮します。

これは動かしたい筋肉を皮膚の上から直接こすってください。

 

 

川平法の各手技には、必ずこの伸張反射か屈曲反射の一方、または両方が含まれています。

 

これらの促通をおこない、筋肉が反応したら、自分で動かしてもらいます。

 

これらの促通をおこない、筋肉が反応したら、「はい、あげて」「はい、曲げて」と声をかけてあげてください。

④もっとも重要なコツ2つ目:力の入れ方

以前に「患者さんは力を抜いて楽に動かしましょう」と言いましたね。

今回はもうひとつ、力の入れ方を言わせてください。

 

手足が麻痺すると動きにくくなります。

そうすると動かないものを動かそうとすると、動かしはじめに勢いをつけたくなります。

つまり動きはじめに持っている力をすべてドンッと入れます。

持っている力をすべてはじめに入れてしまうと、あとが続かなくなります。

そう途中で止まるのです。

 

運よく、勢いの慣性力でおわりまで動くかもしれません。

 

でもその動かし方はよくありません。

 

動かない手足を自分の思うままに動かしたいというのが目標です。

 

それが運まかせの動き方になってしまったらとても自分の思うままにはなりません。

 

ではどうしたらよいのでしょう。

 

動きはじめは弱くそっと力を入れてください。

だいじょうぶです。

介助者が反射で促通してくれているはず。

 

弱くそっと力を入れて、動きはじめたら、その力の入れ方をおわりまで続けてください。

力を抜いてはいけません。やめてはいけません。

ましてや力をもう一度入れなおしてはいけません。

 

弱い力でそ~~~~~~と止まることなく動かし続けてください。

ゆっくりでかまいません。

うまくなってくれば勝手にはやくなってきますから。

 

早く麻痺した手足が動くようになりたかったら弱くそ~~~と動かしてください。

 

「急がばそ~~~と」です。

⑤川平法における掛け声:数をよんでいるだけではだめ

川平法では、介助者が掛け声をかけながらやります。

 

これが非常に大切です。

 

掛け声には2種類あります。

 

まずは「はい、上へ~」「はい、曲げて~」「はい、伸ば~す」というふうに初めに掛け声をかけます。

これは動かす方向を教えるとともに、動かし始めるタイミングを教えています。

この掛け声の一瞬先に促通のための反射を行っているはずです。

その反射の反応が出た瞬間からこの掛け声が始まります。

 

この掛け声がなければ患者さんはいつ力を入れてよいのか、いつ動かし始めてよいのかわかりません。

 

そして動かしている最中にも掛け声を掛けてあげてください。

 

うまくいっていたら、「はい、そうです」

うまくいってなかったら、「もう少し○○してください」

 

そうです。

運動のフィードバックをしてあげてください。

 

これがあるから患者さんはより正しい運動へ近づいていけるのです。

 

より正しい運動を、脳に学習してもらいましょう。

 

これら2種類の掛け声をかけながら、数は頭の中で数えてください。

 

数をよんでいるだけではだめですよ。

 

介助する方はとても忙しいのです。

 

がんばってください。

⑥川平法での歩行の考え方:健側優位歩行

川平法ではタイミングよくスムーズに歩くことを目標にしています。

 

そのためには悪い方の足に体重をかけすぎないこと、踏ん張りすぎないことが大切です。

 

川平先生は「いい方の足に乗りなさい」と言っています。

 

悪い方の足に体重をかけすぎると、いい方の足に体重をかけるタイミングが遅くなります。

いい方の足にタイミングよく体重をかけることができないと、悪い方の足が前に出ません。

 

悪い方の足に体重をかけすぎないためには、いい方の足に十分に体重をかけるようにするとよいです。

そして悪い方の足に体重をかけたら、なるべくすぐにいい方に体重を戻すようにしてください。

 

悪い方の足を前に出すときには、力を抜きましょう。

いい方の足に十分に体重をかけて、悪い方の足の力を抜いてください。

そうすると、悪い方の足が軽く前に出るようになります。

 

悪い方の足に体重をかけすぎると、足は硬くなってしまいます。

硬くなると前に出にくくなります。

硬くなるから力を入れて前に出そうとします。

ますます硬くなります。

悪循環ですね。

 

いい方の足に十分に体重をかけて、そして悪い方の足の力を抜きます。

悪い方に体重をかけたら、あまりがんばらずに、いい方の足にすぐに体重を戻してください。

このようにすると、タイミングよくスッスッと歩けますよ。

 

歩くということは、踏ん張りながら力を入れてむりやり前に進んで行くものではありません。

タイミングのよい重心移動の結果、軽やかに足が交互に出て行くものです。

 

そのためには、健側を十二分に使ってください。

 

すなわち、健側優位歩行です。

⑦川平法の健側優位歩行:健側下肢の筋力が必要

川平法の歩行について、また書きます

 

いい方の足に十二分に乗って、悪い方の足の力を抜いてスッと前に出す。

それが川平法の健側優位歩行です。

 

健側優位歩行では、患側下肢の負担を健側が少し肩代わりしてあげると思ってください。

健常人では2本の下肢がまったく同じように働いています。

2本の下肢は、どちらが主役ということはありません。

健側優位歩行では、健側下肢が歩行の主役になります。

 

その主役が弱かったらどうでしょう。

とても患側下肢をリカバリーできません。

健側下肢は強くなければいけません。

ちょっと歩いただけで疲れてしまっているようではだめです。

 

ですから、健側下肢を鍛えましょう。強くしましょう。

川平法では、健側下肢の筋力強化も大切なんです。

⑧健側下肢の鍛え方:なんといっても立ち上がり

川平法では、健側下肢の筋力強化も大切です。

 

健側優位歩行を行うためです。

 

では、どうして強くすればよいでしょう。

 

方法は簡単です。

 

椅子に腰掛けた状態から立ち上がってください。

椅子からの立ち上がり訓練です。

 

川平法の本家本元の霧島リハビリテーションセンターでは、最低1100回の立ち上がり訓練を行っています。

それを200回、300回とできるようにしていきます。

 

では、なぜ1100回以上なのでしょう。

 

それは、健常人が普通にくらしている中で、立ち上がりは1100回ぐらいは行っているからです。

 

本当でしょうか?

 

実際にある1日、朝起きてから夜寝るまでの立ち上がりの数を数えてみました。

その日は仕事をしていましたが、事務仕事しかしていません。

立ち上がりの数は、なんと103回でした。

何も特別に運動したわけでもありません。

残業も寄り道もしていません。

家と職場を往復しただけです。

 

脳卒中片麻痺の患者さんが、もしも入院されていて、リハビリの時だけしか動いてなかったら。

 

リハビリで1100回立ち上がりをしてなかったら。

 

どんどん弱っていくのがわかりますよね。

 

ましてや、強くしようと思ったら、200回、300回必要ですよね。

 

健側下肢の筋力強化をもう一度、見直してみましょう。

⑨川平法と電気刺激:まさに名コンビ

川平法は脳の可塑性を利用した運動学習です

麻痺した手足になんとかして運動をさせて、脳の学習してもらいます

なんとかして動いてもらうためには促通を行うと以前に述べました。

 

それでも動かなかったら。

 

電気刺激装置を使います。

筋肉に電気を流して収縮させるのです。

川平法では低周波装置を使います。

 

低周波を筋肉に流します。

そして収縮させます。

 

でも収縮して手足が完全に動いてしまったら、自分で動かしたことになりません。

 

自分で動かさないと脳は覚えません。

 

ですから筋肉は収縮しているが、手足は動かないぐらいの電気量を流します。

 

そうすると反射による促通とほんのごくわずかな本人の努力で手足が動きます。

 

本人のわずかな努力でも動けば、脳は学習できます。

 

もうひとついいことがあります。

 

本人の努力がわずかで済むので、筋肉が硬くなりにくいのです。

 

やわらかいままで動かすことができます。

 

すなわち何回でも繰り返すことができるということです。

 

この電気刺激装置を併用した方が、川平法の効果が上がることが研究結果でも明らかになっています。

 

川平法と電気刺激装置は名コンビと言えます。

 

ちなみに電気刺激装置は、伊藤超短波株式会社のエスパージという製品がよく用いられています。

⑩川平法の介助量:運動中にどのくらい介助する?

川平法では、反射を用いて、自動運動を誘発します。

 

運動がおこったとしても、神経や筋肉が弱かったら、手足の重みを患者さんひとりで動かすパワーが足りません。

 

したがって介助者が運動を手で介助してあげなくてはいけません。

 

この介助量がむずかしいのです。

 

介助量が非常に多すぎれば、自動運動ではなく他動運動になってしまいます。

つまり患者さんの運動ではなく、介助者の運動になってしまいます。

運動学習はおこりません。

 

介助量が少し多ければ、最初は患者さんは最大限自分で動かしてくれますが、だんだんと力を抜いてきます。

最大限に動かさなくても、助けてくれることがわかってくるから、無意識に楽をするのです。

これでは運動学習の効果は弱くなります。

 

介助量が非常に少なければ、運動はおこりません。

そうすると運動学習にならないのはわかりますよね。

 

介助量が少し少なければどうなるでしょう。

最初は動かしてくれますが、だんだんと筋肉が疲労してきて、収縮が弱くなってきます。

そうするとあまり動かなくなり、50回はおろか数回で運動できなくなります。

運動学習効果は弱くなります。

 

すなわち介助量は、患者さんが最大限動かそうとしたら楽に動くことができ、そして50回繰り返しても疲労しないぐらいに必要なのです。

 

とてもむずかしいと思いますが、もっとも適切な介助量を探っていって、みつけていくことが川平法の効果を最大限に引き出すのです。

 

がんばってください。

⑪川平法と代償運動:代償運動はだめ

代償運動ということばがあります。

 

麻痺した手足を動かそうとするとき、目的とする動作を行う筋肉と神経が使えない場合、違う筋肉と神経で動かすことです。

 

目的とする動作に非常によく似ています。

しかしどこかが変だったり、足りなかったりします。

 

川平法をしていると、患者さんが無意識にこの代償運動をしてしまうことがあります。

 

代償運動では目的とする神経回路を強化できていません。

 

ちがう神経回路を強化してしまっています。

まちがった神経回路を強化してしまっています。

 

ちろんそれでも動かないよりもマシといわれれば確かにそうですが・・・

 

目的とした動作を学習していくには、思いっきり遠回りになります。

 

ですからなるべく代償運動が行われない方がよいと思います。

 

代償運動が少しでも出現すれば、それが代償運動だということはわかります。

 

介助者はそれを「まあいいか」と思わずに、きちっと教えてあげてください。

 

「そうではなく、こうですよ」

 

もちろん、やさしく教えてあげてくださいね。

 

最初から代償運動なしでできる人はいませんから。

⑫川平法と代償運動:出現していない代償運動

もうひとつ代償運動のお話をします。

 

代償運動はまちがった脳の神経回路を使った運動です。

 

代償運動はなるべくない方がよいです。

 

やっかいなのは出現していない代償運動です。

 

脳の中では、まちがった神経回路にずっと命令が送られていて代償運動が作られているのですが、筋肉の力が弱いため、運動としては出現してこないものです。

 

これはよくあります。

 

たとえば示指の伸展という手技があります。

この練習をしていてやっと運動が出現してきたら、それは手全体のグーパーだったりします。

すなわち示指を伸ばす、指先を上に挙げるという運動をやろうとして、脳ではグーパーの神経回路に命令を送ってしまっていたのです。

 

脳は正しい神経回路がどれかわかりません。

 

ですから介助者が促通をして、なるべくわかるようにします。

 

それでもまちがうことがあります。

それに気づかないでずっと川平法をしていたわけです。

 

それはちゃんと介助者が教えてあげてください。

 

「今こういうふうになっているので、そうではなく、こう意識してください」

 

とてもむずかしいですが・・・

⑬川平法の運動中のフィードバック

 脳卒中片麻痺の皆さん。

 

麻痺した手足を動かす時に、動かす手足をしっかり見ていますか?

 

見なくてもわかる?

 

そうですね。

 

見なくても動かすことができます。

 

そしてどのくらい動かしているか、どう動いているかわかります。

 

でも見た方がはるかにわかりやすいのです。

 

動かした手足がちゃんと正しく動いているかどうかを確認することを運動のフィードバックと言います。

 

運動のフィードバックの最も優秀な方法は、視覚のフィードバックです。

 

自分の意図した運動が正しくおこなわれているかを目で見て確認するのです。

 

川平法は脳の可塑性を利用した運動学習です。

 

運動を正しくおこなって、正しく学習しなければいけません。

 

そのため自分がおこなった運動が正しいかどうか確認しながら、川平法をおこなってください。

 

視覚のフィ-ドバックを使いましょう。

 

川平法をおこなっている間、自分の手足から目を離してはいけません。

 

ちゃんと見て、集中してくださいね。

⑭指のつまみに必要な動き:川平法ではどの手技を使う?

親指と人差し指を軽く曲げて、お互いの先端をくっつけてみてください。

OKサインができます。

 

この動きが親指と人差し指で物をつまむ動作の元です。

 

脳卒中片麻痺の方はこの動きができません。

 

親指も人差し指も伸びて突っ張ってしまって丸を作れません。

水滴が横に寝ているような形になってしまいます。

 

これは指の関節を先から順番に曲げたり伸ばしたりする動きができていないからです。

指の根元の関節だけを手のひらの筋肉を利用して曲げ伸ばししているのです。

 

これを川平法で治すには、「手指伸展と手関節の背屈」という手技を使います。

指の関節を先から順番に曲げたり伸ばしたりすることを学習します。

 

また親指と人差し指の先端どうしが合わない場合があります。

 

親指が人差し指の横にくっついていってしまう場合です。

これは親指が手のひらと直角方向に縦に開かないからです。

 

これを川平法で治すには、「母指の掌側外転」という手技を使います。

親指を手のひらと直角方向に縦に開くことを学習します。

そうすることで母指は人差し指の先端に向かい合うことができてきます。

 

ぜひ試してみてください。

⑮川平法の順番:上肢から?下肢から?肩から?指から?

脳卒中片麻痺の手足の麻痺に対して川平法をおこなう場合、1回の治療の中で上肢と下肢のどちらから先におこなえばよいでしょう?

 

上肢か下肢かという選択では、答えはありません。

 

ケースバイケースです。

 

脳が疲労してしまい、すぐに眠たくなる人は上肢からやります。

下肢を行うことで、連合反応で上肢が硬くなってしまう人は、下肢を先にやります。

 

それでは、同じ上肢の中では、肩からおこなうか、指からおこなうか。

 

原則的には、中枢から末梢へ向かいます。

すなわち、肩から始め、肘、前腕、手関節、指とおこなっていきます。

 

これも脳の活性、集中力ということを考え、逆からおこなう場合もあります。

 

下肢の中でも原則はいっしょです。

 

股関節から始め、膝、足関節、足指とおこなっていきます。

 

下肢の場合は、脳の活性を考え、足指からおこなうということはほとんどありません。

 

あと、体位変換をあまり頻繁におこなわなくてよいようにします。

 

例えば、臥位の途中に坐位の手技を入れることはあまりしません。

臥位の手技を全部終わってから、坐位の手技に移ります。

 

常に効率よく、治療効果がもっとも高い順番を患者さんごとに設定していくと思ってください。

⑯川平法の順番:こんなこともあります

川平法の手技の順番についてもうひとつ話します。

 

川平法の手技の順番は、脳の疲労、連合反応、脳の活性などを考え、おこなう順番を設定していきます。

 

ある順番を設定して川平法をおこなったとします。

 

おこなってみると、不思議なことがおこることがあります。

 

たとえば、肘の伸展を練習します。

即時効果が現れて、肘の伸展が少しできたとします。

 

次に肘の屈曲を練習します。

これも即時効果が現れて、肘の屈曲が少しできたとします。

 

これで肘の伸展と屈曲ができるようになりました。

でも屈曲・伸展をさせてみると、先ほどできていた肘の伸展がまったくできなくなっています。

 

こういうことがおこることがあります。

 

次にやった手技の方が学習しやすかった場合、学習が強かった場合、前の学習が消えてしまうのです。

特に拮抗筋同士でよくおこります。

 

なみに肘の屈曲を先に行うと、肘の伸展をおこなったあとでも、肘の屈曲は残っていました。

この場合、強く学習できる肘の屈曲を先に行って、次に肘の伸展をおこなった方が両方とも残りやすいわけです。

 

このように学習のしやすさ、学習の強さで順番を工夫しなければいけないこともあります。

 

脳って本当に不思議ですね。

⑰川平法に必要なこと:ほめる

川平法は脳の可塑性を利用した運動学習です。

 

運動学習ですから誤りなき学習をしなければなりません。

患者さんが意図した運動が発現しないかぎり学習にはなりません。

はじめ患者さんは意図した運動を行うことができません。

介助者の方はそれがどんな運動であるかはわかっています。

ですからもし意図した運動が発現すれば、正しい運動であると患者さんに教えてあげてください。

そうすることによって脳は運動を学習していきます。

 

その教え方は、ほめてあげてください。

「そうです。その感じ。上手です。」

必ずほめてあげてください。

 

だめなときだけ指摘していては、患者さんはだんだんといやになってきます。

 

動物は否定ばかりしていると、その行為をおこなわなくなります。

 

こんな実験があります。

ネズミを檻に入れます。

檻に電流を流します。

そうするとネズミが走りまくって檻に触れると、ビリッと痛いわけです。

じゃあネズミは檻に触れないように走るようになると思いますか。

いえいえ、ネズミは檻のまん中にうずくまって動かなくなってしまいます。

走るという行為そのものをおこなわなくなります。

 

人もいっしょです。

 

ですから、否定するのではなく、うまくいったときだけほめる。

ほめることが学習には必要です。

 

少しでもうまくいったら、すかさずほめてください。

⑱川平法の歩行のための自主訓練:お尻歩き

アニメのクレヨンしんちゃんをご覧になったことはありますか。

 

その中でしんちゃんが「お尻歩き」というものをやっています。

 

これが川平法における歩行のための自主訓練にそっくりなんです。

 

まず足を伸ばして、床に坐ってください。ベッドの上でもよいです。

体重を右のお尻にかけて、少し左のお尻を床から浮かします。

そうしておいて左の骨盤を前に出してください。

そしてお尻を降ろします。

次は反対側です。

体重を左にかけて、右のお尻を浮かします。

右の骨盤を前に出してから、お尻を降ろします。

 

こういうふうに交互に行えば、お尻で前に歩いていくことになります。

もちろん手は使わない方がよいです。

 

この動きが歩行中の骨盤の動きと同じなのです。

 

この骨盤の動きがスムーズにできれば、歩行中に足が楽に振り出されることでしょう。

 

「123456」と左右3歩ずつ前に行ってください。

 そして「123456」と左右3歩ずつ後ろに戻ってください。

 それを3セットおこないましょう。

 

ぜひやってみてください。

 

特に外に出たくない日には、便利な自主訓練です。

⑲川平法と筋収縮:力を入れて踏ん張ることはよいこと?

動かすことと、力を入れて踏ん張ることは違います。

 

特に川平法では、気をつけてください。

 

動かすには力を入れなくては動かないじゃないか、とおっしゃるかもしれません。

でも川平法ではそんな動かし方は求めていません。

そんな筋肉の使い方をしてはいけないのです。

 

筋肉の使い方、筋肉の収縮のさせ方には大きく分けて二通りの方法があります。

 

等張性収縮と等尺性収縮といいます。

 

等張性収縮は、筋肉を収縮させると手足が動いていきます。

筋肉が縮んだ分だけ関節が動くわけです。

 

等尺性収縮では、筋肉を収縮させても手足が動きません。

ただ硬くなるだけです。

腕の力こぶを見せるときの収縮のさせ方です。

 

川平法では絶対に等張性収縮をおこなってください。

等尺性収縮では関節の動き、手足の運動がおこりません。

運動がおこらないので、どんなに力を入れても、運動学習はおこりません。

 

川平法では等尺性収縮ではなく、等張性収縮をおこなってください。

 

力を入れて踏ん張ってはいけません。

⑳川平法の目標:具体的な動作を目標としましょう

「日常生活動作を目標にしましょう」

 

川平和美先生が著書(家庭でできる脳卒中片マヒのリハビリやさしい図解「川平法」)で述べていることです。

 

その日常生活動作の例として、服の脱ぎ着が楽になる、顔をふく、ドアノブを回す、コップをつかむ、薬袋を持つ、小さな物をつまむ、足を浮かす、などが挙げられています。

 

このように、具体的な動作を目標とした方が効率的に川平法がおこなえます。

 

なるべく少ない努力で、最大の効果が得られた方がいいですよね。

 

また気持ちの上でも

 

川平法を実施しているうちに、こんなことができるようになった。

 

というような新しい発見もとてもうれしいと思います。

 

しかし、最初から目標を持って川平法を実施していき、それが達成された喜びの方が大きいのではないでしょうか。

㉑川平法でもっとも効果を出すには:戦略が必要

ちょっとプロ向けの話をします。

 

川平法で最大の効果を引き出すには各々のケースに応じた戦略が必要です。

戦略とは、実施する手技の選択、順序、強調すべき点、変更すべき点などをいいます。

 

どんな効果を出したくて川平法を行うか?

その効果を出せるもっとも近道はどれか?

 

実際に川平法をやってみて、反応をみて、効果を検証していくのです。

 

そして戦略を練っていきます。

 

もちろん何も考えずに川平法を実施してもある程度の効果はあります。

しかしプロたる者、常にベストな結果を出したいですよね。

それには戦略が必要です。

 

戦略の良し悪しが、セラピストによって効果が違ってくる原因にもなってきます。

 

常に考え、常に自分に問いながら、川平法を実施していきましょう。